Be AHEAD  02 熊本学園大学編 問いの先へ! Be AHEADとは AHEAD JAPANの理念とともに、障害学生支援を一歩先へ進めるために、高等教育機関の現場から生まれた創意ある取り組みやグッドプラクティスを発信します。 熊本学園大学 熊本学園大学は、「師弟同行」「自由闊達」「全学一家」の建学の精神のもと、一人ひとりに寄り添いつつ自由な学風を大切にしています。商・経済・外国語・社会福祉といった幅広い専門知識と豊かな教養を授け、地域を支えつつ世界で活躍できる国際人を育成しています。学生と教職員が一つとなり、多様な人々と協力しながら課題に挑む力を涵養。地域に根ざした伝統をいかし、確かな知性で社会に貢献できる人物を育む、温かく活気ある大学です。 〔写真説明〕2ページ目の上部に熊本学園大学の校舎の写真、下部に学生総合支援センターの教職員の写真。 〔本文 開始〕 誰一人取り残さない、「点」を「線」でつなぐ ――熊本学園大学・学生総合支援センターの取り組み キャンパスに学生たちの賑やかな声が響く。その中には、車椅子で移動する学生や、目に見えない「生きづらさ」を抱えながら歩む学生もいる。 熊本学園大学には、彼らの歩みを支える大切な場所がある。2025年度まで「インクルーシブ学生支援センター」と称していたが、全学的体制を目指して2026年度より「学生総合支援センター」へ発展的に改組された、学生支援の拠点である。 センターは、「障害学生支援室」「なんでも相談室」「保健室」の三室を柱として構成されており、組織として一体的に機能している点に特徴がある。 三つの窓口、一つの想い 支援の現場を訪れると、そこには「専門性の壁」を感じさせない、風通しの良い光景が広がっている。合理的配慮の中心となるのは「障害学生支援室」だ。障害のある学生に対し、授業でのノートテイク・iPadでの情報保障等を行う学生サポーターの調整など、学びを支える人材育成とともに、教職員への理解・啓発を含めた実際の配慮手続きを円滑に進めるためのコーディネート業務を担っている。隣り合う「なんでも相談室」には、臨床心理士や社会福祉士、さらには司法書士(非常勤)までが名を連ねている。ここは、学生の心の悩みから金銭トラブルまで、文字通り「なんでも」受け止めるセーフティネットである。そして「保健室」。ここでは看護師が、身体的な疾患へのアドバイスだけでなく、学生にとっての温かな「居場所」としての役割も果たしている。 「窓口はバラバラでも、中に入ればみんな繋がっている」。これが熊本学園大学の強みだ。毎朝、三室のスタッフが顔を合わせ、朝礼で各部門のその日の動きを共有する。毎週実施するセンター会議では、学生の情報を適宜共有し、その中で学生が保健室にふらりと立ち寄った際の一言が、支援室での配慮内容の見直しに繋がる――そんな「多面的」なサポートが、日常的に当たり前に行われる風景である。 プロパーが支える「盾」と「土壌」 ※プロパー(一般職員):法人内での異動もある正規の事務職員のこと ※専門職員:臨床心理士や社会福祉士など支援部署に従事する正規、非正規を含めた支援の専門職員のこと この多面的な支援体制を根底で支えているのは、プロパーの一般職員である。臨床心理士や社会福祉士といった専門職員がその知見を最大限に発揮するためには、現場が安心・安全に機能する環境が不可欠だ。同センターのプロパーは、現場の専門職員が迷いなく動けるよう環境を整えることに、強い自負を持っている。学内には時に様々な圧力や困難も生じるが、それらを正面から受け止め、内外からの逆風がある中でも、組織体制を揺るぎないものへと整備してきた。プロパーが「盾」となり、専門職員が「矛」として動く。この一体感こそが、支援の質を担保し、結果として学生の大きな安心感に繋がっているのである。 そして、この「盾」としての力が今日の形へと育まれてきた背景には、身体障害のある学生の受け入れをめぐる長年の蓄積がある。熊本学園大学の学生支援の歩みを語るうえで、その歴史は欠かせない。段差や動線、施設設備、学内の理解と調整――「学ぶこと」を当たり前に成立させるために、現場では一つひとつ課題に向き合い、具体的な改善を積み重ねてきた。 その歩みは、制度や仕組みを整えれば完了するものではない。時に学内調整や判断の難しさを伴いながらも、学生の学びを守るために支援を「大学の仕事」として根づかせていく営みでもあったと言える。こうした蓄積があるからこそ、現在の三室連携や、プロパーが支える「盾」としての機能が、単なる役割分担にとどまらず、組織文化として息づいている。 〔写真説明〕3ページ目の中央に学生総合支援センターの説明動画 「境界線」にいる学生たちへの眼差し 大学の支援において、最も難しいとされるのが所謂グレーゾーンの学生たちだ。グレーゾーンの定義は曖昧でその表現を好むわけではないが、診断はないけれど、どこか馴染めない、あるいは診断はあっても配慮申請を出すこと自体にためらいを感じている。どこの大学においても、支援の入り口に立つこと自体が難しい層とされる学生たちである。 同大学の取り組みが光るのは、こうした学生へのグラデーションのある支援である。例えば、障害学生支援室へ行くことにハードルを感じている学生には、まず「なんでも相談室」で寄り添う。相談室という場所を分け、相談・カウンセリングという形式を取りながら、さりげなく修学上のフォローを続けるのだ。 まずは相談室で安心して話せる環境を整えつつ、単位不足など具体的に修学困難などが差し迫り、支援者が、学生自身が自分のことを理解する必要があると見立てた段階で、学生本人が自分のタイミングで「支援の輪」に乗れるよう、なんでも相談室から障害学生支援室へとシームレスにバトンを渡していく。支援者が適切なタイミングを判断していることも大きいが、信頼関係が構築されているからこそのつながる支援と言えるだろう。 孤立させない、生き生きとした支援の現場 障害学生支援の現場は、大学組織の中で孤立しやすい領域とされることが少なくない。しかし、熊本学園大学では、この領域を大学運営における重要な機能の一つとして明確に位置づけている。支援部署が組織として認識され、その役割が学内で共有されていることは、専門職員が専門性を発揮できる環境づくりにつながっている。そうした環境のもとで、自らの役割に誇りを持ち、情熱をもって仕事に向き合う姿は、支援を利用する学生にとって、一つのロールモデルとなっているのではないかと感じた。大学という場で、それぞれが自分らしく在りながら働いている。その姿を日常の中で目にすること自体に、確かな意味があるのではないだろうか。 熊本学園大学の支援は、マニュアル通りの処理ではない。それは、学生の小さなサインを見逃さず、現場の支援者が「あの学生、今日はどうかな?」と顔を合わせて、言葉を交わすことから始まる、支援の本質的な対話なのである。 こうした対話を基盤とする支援の姿勢は、災害時の備えにおいても具体的な実践として展開されている。熊本学園大学の支援を特徴づける上で欠かせない実践の一つが、障害学生個別避難計画づくりである。 学生本人を中心に据えた個別避難計画づくり 熊本学園大学では、障害学生の災害時の備えを単なるマニュアル整備にとどめていない。学生自身が自分はどのように避難したいのかを言葉にし、周囲と共有しながら形にしていく個別避難計画づくりを継続している。計画の中心に据えられているのは、常に学生本人である。こうした取り組みは、熊本地震以前の2014年度から実施されてきた。 障害学生の避難対応においては、単に避難ルートを確認すれば済むものではない。車椅子を利用する学生の場合、階段や段差、混雑時の導線、建物構造の違いなど、実際の現場に立って初めて見えてくる条件が数多くある。さらに大学では、授業中、移動中、課外活動中など、さまざまな状況で被災する可能性がある。そのため、決められた避難方法に従うのではなく、学生が自身の身体の特性や必要な介助内容などを、本人の言葉で周囲に伝えていくことが重要となる。しかし、そうした内容を最初から十分に言語化できる学生ばかりではない。 そこで熊本学園大学では、防災についての講義と個別避難計画づくりワークショップを実施している。その中で、学生本人、学生サポーター、教職員が話し合いながら、どう逃げるかを一緒に組み立てていく。計画書は本人が持ち歩ける形で作成され、車椅子の背面に入れられるよう工夫されることもある。学内で保管するだけでなく、データとしても残し、必要に応じて更新できる前提で運用されている。 この取り組みの核にあるのは、話し合い→実践→修正という循環である。例えば、電動車椅子ごと階段を降りたいという学生の希望も、頭の中だけでは安全性を判断できない。実際に試してみることで、初めて可能性や課題が具体化し、本人の安心感と計画の現実味が高まっていく。災害時は丁寧な説明ができるとは限らないからこそ、体験を通して“伝わる形”に更新していくことが重視されている。 2025年度も夏季休暇中に、障害のある学生3名、学生サポーター5名、教職員11名が参加する避難訓練が実施された。地震や火災を想定し、学生一人ひとりが作成した個別避難計画を起点として、上階からの避難を検証した点が特徴である。訓練では、電動車椅子の扱い、段差での対応、担架使用時の人員配置など、机上では見えにくかった課題が次々と明らかになった。実践後には振り返りの時間を設け、気づきや改善点を共有している。 この訓練で大切にされているのは、唯一の正解を定めることではない。状況も、人も、環境も変わる。だからこそ、考え続け、更新し続ける。避難訓練を一過性の行事に終わらせるのではなく、学生自身が不安や工夫を言葉にし、周囲と共有するプロセスそのものが学びとして位置づけられている。避難訓練は、防災のためだけの取り組みではない。それは、学生が自分の状況を説明し、周囲と協働しながら行動する力を育てる機会でもある。熊本学園大学の実践は、安全配慮を超え、主体的に生きる力を育てる支援として、避難訓練の意味を問い直している実践である。 〔写真説明〕5ページ目の下部に熱中症対策キットと緊急セットの写真 大学間連携が支える持続可能な学生支援 加えて、熊本学園大学の障害学生支援を語るうえで欠かせないのが、大学間連携である。熊本には、大学同士が長年にわたり顔の見える関係を築いてきた土壌がある。障害学生支援に関わる担当者同士が、各大学における実践や知見を共有してきた。 その一つが、大学コンソーシアム熊本が取りまとめる「障がい学生支援連携事業」である。これは、大学としての方針や制度、支援の枠組みを整理し、学内外に説明可能な形で共有するための場であり、各大学の立場や判断を明確にしながら、共通理解を形成することが重視されてきた。 もう一つが、SUN-Kuma(Support University Network Kumamoto)である。こちらは、日々の支援実務により近い距離で行われてきた情報共有の場であり、このケースはどのように対応しているか、どこまでを大学として担っているかといった、判断に迷いやすいテーマについて、率直なやり取りが重ねられてきた 。 このように性格の異なる場が併存してきたことにより、大学間連携は形式的な情報交換にとどまらず、現場の実践と結びついたものとして機能している。災害対応や実習、医療・福祉機関との連携といった学外に及ぶ課題については、単独の大学で対処することは困難である。早期に優れた実践例を共有し、他大学の知見や地域資源を活用できる体制を構築することは、各大学における学生支援の質の向上に寄与している。 SUN-Kumaは、2018年10月に始まった取り組みであり、現在では九州ルーテル学院大学、熊本学園大学、熊本大学、熊本保健科学大学、崇城大学、東海大学熊本キャンパスの6大学が参加している。障害学生支援担当部署のスタッフによる定期的(月1回)な意見交換が行われているほか、各大学の学生サポーター同士が交流する機会も(年1回)に設けられており、大学の枠を越えて支援の視点や工夫を共有する場となっている。 大学間連携は日常的な相談や小さな情報交換の積み重ねが、各大学における障害学生支援の実践を支えている。個々の大学が直面する課題は多様であり、すべてを一大学のみで解決することには限界がある。だからこそ、他大学の経験や判断を参照しながら、自大学の状況に引き寄せて考えていくことが重要となる。こうした連携の広がりを資源として活用し、日々の実践が展開されているが、学内においてなお検討を要する課題も残されている。 今後の課題 知的障害のある学生への支援 熊本学園大学では、前述したグレーゾーンの学生だけではなく、合理的配慮だけでは十分に学修が成立しにくい学生の入学が増えている。すなわち、支援の入り口に立つことが難しい層だけでなく、制度の中で学修をどのように成立させるかという課題を抱える学生も増加しているのである。ここでの課題は、支援につながることそのものではなく、大学という制度の中でどのように学修を成立させるかという構造的な問題にある。 現在、支援の中核を担う「学生総合支援センター」では、「障害学生支援室」、「なんでも相談室」、「保健室」が連携し、学生一人ひとりに応じた多面的なサポートを提供している。知的障害があり学修の遂行に困難を抱えやすい学生に対しては、対応する教員への助言や面談への同席、専門職による特性の通訳といった修学上の橋渡しを主軸としている。また、基礎学力やレポート作成の困難さなどに対する学習サポートについては、学内の教育センター(教育・学習支援室)の活用を促し、無理なく学びを続けられるよう支援している。 一方で、高校までの手厚い支援と、大学で求められる自律的な学びとのあいだには、なお隔たりがある。多くの学生が高校と同等の支援を期待して入学するが、現状では直接的な学習サポートの体制整備に課題があり、成績評価は個人の学力に委ねられている。解決策の一つとして、熊本学園大学では、支援の責任所在の明確化を推進している。入学前面談への学科長の参加を必須化するなど、支援はセンター任せという風土から脱却し、学部学科が主体的に教育・指導責任を持ち、全構成員が当事者意識を有する体制構築を目指している。本稿で紹介したセンターにおける支援も、その基盤の上に成立することでより一層機能するだろう。 この課題は、大学における学びとは何かという問いそのものを私たちに投げかけている。 〔本文 終わり〕 一般社団法人 全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN) 高等教育機関における障害学生支援に関する相互の連携・協力 体制を確保するとともに、実践交流を促し、障害学生支援に関する調査・研究及び研修・啓発を行って実務への還元を図り、もって大学における障害学生支援の充実並びに学術研究の発展に寄与することを目的とする事業に取り組む 発行年月 2025年5月 編集後記 Be AHEAD第2号をお届けします!今回は熊本学園大学にお伺いさせていただき、 支援の在り方や地域との繋がりを学んできました。 現場を支える方々の熱い思いに触れ、メンバー一同「本当に行って良かった」と実感しています。 取材前後に、飛行機のトラブルなどのハプニングもありましたが、それも良い思い出。 空港で味わったご当地グルメや、立派な熊本空港のラウンジ、そして愛くるしいくまモンに癒やされ、充実した出張となりました。次号もどうぞお楽しみに! 〔音声データ〕 望月 みなさんこんにちは大阪大学の望月です。今回、AHEADで広報として発信しています、Be AHEAD第2号ができました。今回は熊本学園大学を訪問させていただいて、いろいろと皆さんにお届けしたいと思っております。遠いところまで行った甲斐があるぐらい、学内の歴史も含めてお聞きして、大変貴重な時間でした。他の方にも意見を聞きたいと思います。 では森さん、お願いします。 森 はい、和歌山大学の森です。印象にあるのは、教員の障害者に対する思いや考え方と、大学の現場でどうあるかというところが非常に面白かったなあと憶えています。熊本城はバスから見ました。はい以上です。 望月 熊本の思い出のありがとうございます。 続いて蒔苗さんどうでしょうか? 蒔苗 はい、宮城学院女子大学の蒔苗です。今回、その大学でどのように学生を支援したいのかという思いをもとに、学内でどうつながるか、地域でどうつながるかというところがすごく勉強になりました。熊本は日帰りでしたが、本当に行って良かったです。皆さん是非みてください。以上です。 望月 蒔苗さんが当日来れるかどうかわからないところ、無理矢理のように頑張って来てくれました。 はい、続いて所属も変わって新たな楠さんかな。よろしくお願いします。 楠 はい、今年度から京都大学に所属しています楠です。急遽飛行機が飛ばなくなって新幹線で来ましたが、それでも行って良かったなと思います。早く行って熊本観光したかったないう残念な気持ちもありますが、行ってよかったです。印象としては、学生相談室や障害学生支援部門の皆さんがとても仲良くされている点が印象に残っています。 望月 はい、楠さん、しっかりしめてくださってありがとうございました。僕自身も、紙面に載せられない話をたくさん聞いたという記憶があって、ただどこの大学でも支援が成立するまでには様々な過程があるのだと感じていますし、その一端を伝えられていたらと思います。僕自身、少し早く熊本に行けて、美味しいカレーや馬肉をよばれたなというのは想い出として残っています。 はい、他に皆さんありますか?言い残したことありますか?大丈夫ですか? 楠 蒔苗さんは馬刺しは食べれんかったん? 蒔苗 馬刺しは食べられなかったですね。からしレンコンのコロッケを空港で食べました。めっちゃ美味しかったです。 望月 最後空港で食事できましたね。 楠 熊本空港が立派でしたね。ラウンジがね 森 きれいだったね。 蒔苗 くまモンも可愛かったですね。 望月 確かに。くまもんグッズもたくさんありましたね。 話がだんだん離れていっているので(笑)。 では、このあたりで編集後記を終わりたいと思います。皆さんお疲れさまでした。これからの第3号もぜひ楽しみにしおいてください。皆さんよろしくお願いします。 〔写真説明〕6ページ目の下部に取材時の熊本県での想い出の写真。 AHEAD 広報メンバー 大阪大学 望月 直人 宮城学院女子大学 蒔苗 詩歌 和歌山大学 森 麻友子 京都大学 楠 敬太